父ちゃんは同級生(1)

卓越した文章力と強烈な自己主張により
今や完全に母屋を凌ぐ勢いのつかちゃんが
当ブログにて小説を連載します。
ここから読み始めて訳わかんない人はこちらを参照↓
http://d.hatena.ne.jp/ten-sei/20110603
不定期に更新しますのでご期待ください


『父ちゃんは同級生』
 作  :つかちゃん 
 監修 :三宅彰(第14回サントリーミステリー大賞受賞)
 提供 :天晴れ人生

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6月。そぼふる雨
信州U市。厚生連U病院


今、二つの命が消えようとしていた


壁を隔てて二つのICU
堤純一、四十二歳。
若い頃からの放蕩がたたり、悪い所だらけの多臓器不全
身長185センチ80キロあった体躯は
蝕まれて見る影もない
浅い呼吸が酸素マスクを白く曇らせ
かたわらで見守る二人の息子が、その終焉を凝視していた。


隣のICUには、青白く、驚くほどに痩せこけた男の子
克也 14歳
拒食症により小学校低学年と言われてもおかしくない身体と、幼い顔立ち
両親、お祖母ちゃんが見つめるなか
息を引き取ろうとしていた。


純一の混濁した意識の中
心残りは二人の息子
5年前純一に愛想をつかし家を出た妻
純一も自分なりに頑張って育ててきたつもりが
生来の根性は直りもせず、
結局は高校生と中学生を残し、死にかけている不甲斐なさに
涙が流れた


人は死ぬ間際、やってきた事の後悔よりも
やらなかった事を後悔するらしい
あれもこれもとめぐらせながら
最後、息子二人に「ゴメンナ」と言おうとした刹那
フワリとした浮遊感を感じた


自分の身体を天井から眺めている純一がいた
テレビドラマのようなBGMもナレーションもない臨終の瞬間
担当医が右手の脈を診ながら時計を見た


と、隣の部屋から大きく息子の名前を叫ぶ家族の声
純一は引き寄せられるように壁をすり抜けた
そこには今まさにこと切れるもう一つの命があった
心音計が一本の線となり
ピーッと鳴った


克也にしがみつく両親の悲鳴にも似た絶叫が響く
克也の反り返る身体から、見えないかげろうが立ちのぼり

純一の魂に向かってきた
よける間もなくその魂と鉢合わせした途端
あろうことかバランスを崩した二つの魂は
重なりあって克也の身体にまっ逆さまに落ちていった
脈をとり、臨終の時間を告げようとした医者の目が見開かれ

「そんなバカな、、、」

心音計が再びピコンピコンと動きだしたではないか


母親の「かっちゃん!」の呼び掛けに、うっすらと目を開けた克也


「はい、ただいま」


同時刻、隣からは父親の名前を呼ぶ子供の押し殺した泣き声があった

克也の主治医がつぶやく
「生き返りました。信じられません」
「あぁ神様」
きつく抱き締める母親の胸で小さくつぶやく克也


『誰?』
『お前こそ誰だ?』
『僕は克也』
『俺は堤純一』


「どうしたの?かっちゃん」
泣き濡れた顔を近づけ不思議そうに見つめる母親
「なんでもない。何だかお腹すいたよ」
「そうなの。ああ良かった。何が食べたいの」
「カツ丼とビール」
「はいはいカツ丼とビールね、、、、えっ!?」
−−

つづく