父ちゃんは同級生(4)

前号まで-----

父ちゃんは同級生(1) http://d.hatena.ne.jp/ten-sei/20110606

父ちゃんは同級生(2) http://d.hatena.ne.jp/ten-sei/20110613

父ちゃんは同級生(3) http://d.hatena.ne.jp/ten-sei/20110614

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 次の日、克也は母親の車で葬祭場に向かっていた。久しぶりに着る学生服の詰襟がブカブカだ。中学に入学した時に、大きくなることを想定して母親と一緒に買いに行った学生服だったが、2年生になってもほとんど成長することもなく、まるで小学生がお兄ちゃんの学生服を借りて着ているように似合わない。

 絶望的なまでに削げ落ちた筋肉は、歩く事もままならず、入院する数ヶ月前から車椅子を載せるために父親はワゴンを買い、後部座席を外し改造した。悲しいかな父親一人で車椅子と一緒に持ち上げられるほど克也は軽かった。

 純一は車に揺られながら考えていた。純一の魂は・・・と言ったほうが良いだろう。

 克也の視界を通して眺める車窓からの風景は、道路に沿って流れる、昨夜の雨で水かさを増した千曲川の濁流の茶色と、雨で洗われキラキラと光る木々の緑。6月の風が爽やかに流れ込む。カラリと晴れた、いつもと変わらない信州U市の風景だった。

「俺は、今までに誰か、たった一人でも幸せにしたのだろうか」

 親からもらった並外れた体と頭脳。常に注目を浴びていた子供の頃。大した努力もしないで結果を残してしまったあの頃。その貯金を惜しげもなく浪費していたそれからの人生。そしてあまりにも早い終焉は、すべて自業自得の結末であった。

『おじさん・・・どうしたの?』『なんでもない』『何となく気持ちが沈むよ』『そっか・・・ごめんな。俺の気持ちがかっちゃんの体に影響するのかな。あとさ、そのおじさんってのやめてくんねえかな』
『なんて呼べばいいの?』『純ちゃんでいいよ』『じゃ今日から純ちゃんて呼ぶね。けどさ・・・いつまでいるつもり?』『う〜ん、わからねぇ。どうやったら出られるんだろうな』
『でも・・・純ちゃんの魂と、あの病院の天井でぶつからなかったら、僕はきっと今ここにいないんだよね。』『・・・そうなるのかな』

『ありがとう純ちゃん』

『それにしてもなんでこんなに痩せちゃったんだい?』
『・・・言いたくない』

 
 「 着いたわよ 」

 母親の声に目を上げた。広い駐車場を埋め尽くした参列者の車。喪服の集団が葬祭場に続々と吸い込まれていく。克也にとっては記憶に無いほど小さい頃におじいちゃんの葬式に出た以来。独特の雰囲気を醸し出す葬祭場。お葬式の会場なのに、何で「 祭り 」って字が一緒にあるんだろうと、どうでもいい事を考えながら克也は車椅子に座っていた。

「 誰か係の人呼んでくるから待っててね 」そう言って歩き出した三千代の前に、中学生の一団があった。
「 克也君のお母さん! 」「 遠藤先生 」
 ボサボサの頭と、はち切れそうなお腹を無理やり詰め込んだ喪服姿の遠藤先生が立っていた。